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冬/曲げ輪っぱ作り
檜枝岐村は日本有数の豪雪地帯。積雪は3mを超す。厳冬期の2月、曲げ輪っぱ作りをする星さんを訪ねた。
作業小屋は採光を考えて二面に大きな窓が設けてある。自然光の柔らかい明るさと静寂が心地よい小屋で仕事をするのは朝10時から午後3時まで。山に挟まれた檜枝岐の冬は日照時間が短い。
曲げ輪っぱの材料は黒檜木(別名ネズコ)。薄い板状にしたネズコを熱湯に5、6分浸けて中の気泡をすべて抜かないと良いものは作れない。黒檜木は年々少なくなってきていて、檜枝岐の曲げ輪っぱ作りを伝承するためには、後継者だけでなく材料の問題もある。
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型(ごろた)に巻き込む「曲げ込み作業」。制作しているのは「ヨコメッツ(楕円形の弁当箱)」
樺の紐で美しく仕上がった工芸品のような弁当箱。「どこからどこまで気に入ったというものはめったにないよ」
星さんは毎年7月20日過ぎに山椒魚漁を終了すると、所有する広大な蕎畑に種まきをして、お盆と祭りを終えた8月下旬から、本格的に曲げ輪っぱ作りを始める。

といっても「小屋の中にいると体の調子が狂う」から、秋にはマイタケ採りなどにも出かけていく。曲げ輪っぱ作りは翌年の山椒魚漁が始まるまで続く。

星さんの名刺には「山椒魚薫製・曲輪製造」と二つの肩書きがある。「おもては曲輪の方だな、山は昔のように歩けなくなったから」
使う道具はカンナ、糸鋸、木槌、ドリル、グラインダーなど10種類ほど。「今の道具は重宝だ。替刃のカンナ、替刃の鋸、カッター、こっちの方がずっといいや」
楕円形に成形した板の重なり部分に目刺し(穴を開け)をして、紐で縫う。紐は樺(桜の樹皮)を使う。
じつは星さんの次男が、後継者として昨年から山椒魚漁と曲げ輪っぱを始めた。

「100個作って15個くらいはまだ失敗する(息子)」。

「100個作って10個だな、合格は(父)」。

「(曲げ輪っぱにくらべたら)山椒魚漁を教えるのは難しい。雪の量、温度、水量によって左右されるから、こうしなさいとは言えない。自分の頭のプログラムに入れなきゃわかんないさ」
「曲げ輪は尋常過ぎて面白味がない。そのてん山はいい、自然相手の方がいい」。

「12月くらいになると(積雪期が来るため)憂鬱になる。春になると気分が良くなる。芽吹きで山が青くなった頃になると、むかしの捕れた頃のことを思って、また山に入りたくなる」

「ブナの花の終わったときがおらの歩くときだから熊には会わない。あの道の柔らかさ、登山道では味わえないよ。地下足袋に素足がいいな」